溶連菌て「人食いバクテリア」とちがうの?|番町麹町こどもクリニック|四ツ谷・麹町の小児科・内科・アレルギー科

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溶連菌て「人食いバクテリア」とちがうの?

溶連菌て「人食いバクテリア」とちがうの?|番町麹町こどもクリニック|四ツ谷・麹町の小児科・内科・アレルギー科

こんにちは。番町麹町こどもクリニックです。

全国的に猛威を振るっているインフルエンザ。みなさま体調はいかがでしょうか。当院の所在する千代田区界隈でもインフルエンザの患者様が増えていますが、並行してじわじわと増えているのが溶連菌性咽頭炎です。高熱、悪寒、頭痛、喉が痛い・・と受診し「う~ん、インフルエンザの可能性が高いね」なんて言いながら喉をみると、真っ赤さらには白苔(白いこけのようなもの)がついている!これはインフルエンザではない、溶連菌だ!と迅速検査をするとやっぱり陽性でした、ということが多々あります。わたしが溶連菌といって思い浮かべるのは「若草物語」のベスですが、最近は劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STTS)、人呼んで「人食いバクテリア」の方がメジャーでしょうか。呼び方からして恐ろしいことが伝わってきますが、わたしも足に傷ができるたび、この人食いバクテリアにおびえています。今日はその溶連菌についてのお話です。

結論から言いますと、溶連菌咽頭炎と人食いバクテリアの溶連菌は全く同じものです。溶連菌咽頭炎はA群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes病原体とする感染症です。A群β溶血性レンサ球菌というぐらいだからもちろんα、β、γ溶血もあって、A群、B群、C群、G群、L群があります。考えただけで溶連菌には様々な種類があると予想できますが、最も重要な菌種がA群β溶血性レンサ球菌です。一方人食いバクテリア=劇症型溶血性レンサ球菌感染症の病原体は咽頭炎の場合と同じA群β溶血性レンサ球菌が主ですが、そのほかB群、C群、G群の溶血性レンサ球菌などがあります。まとめると溶連菌咽頭炎の原因菌はA群β溶血性レンサ球菌ですが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌はA群β溶血性レンサ球菌が60~70%、そのほかB群、C群、G群レンサ球菌が30%程度、つまるところ溶連菌咽頭炎と人食いバクテリア=劇症型溶血性レンサ球菌感染症の菌は全く同じものということです。一般的には咽頭炎などを引き起こす菌ですが、まれに劇症化し重篤な症状を引き起こすわけです。なぜ劇症化するのかは残念ながらまだ解明されていません。ただ劇症型溶血性レンサ球菌の感染者が過去最多となった2024年を含め、2023年以降溶連菌咽頭炎が増えていることが要因の一つである可能性があると考えられています。(大変曖昧な言い方ですが💦)

みなさんが一番気にされているのはおそらくこどもの咽頭炎から大人の劇症型溶血性レンサ球菌感染症になることがあるのか?」についての答えは「正直まだわからない」ですが、今現在の情報からは「その可能性はありうる」ということになります

迅速検査の結果を伝えたときのお母さんたちの反応は、インフルエンザの場合「えー!!うそーどうしよう😰」が多いパターンですが、溶連菌だと「あら、溶連菌だったの 😯 」と慌てふためく感じはありません。実際わたしもこどもが溶連菌だったと分かったら同じ反応だと思います。この違いは出席停止だったり、様々な事情があるかと思います。しかしインフルエンザでも溶連菌でも、もちろん他の感染症でも家庭内感染を防ぐために、一貫して基本的な感染対策をとることが大切です。そうすることで、恐ろしい人食いバクテリア、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の予防につながっていくでしょう。

余談ですが、「若草物語」のベスはご存じの通り、お世話をしていた双子の赤ちゃんから猩紅熱に感染しました。猩紅熱とは、おなじくA群β溶血性レンサ球菌による感染症で咽頭炎に加え、特徴的な紅斑など全身症状を呈します。溶連菌咽頭炎の重症化した状態と考えるとわかりやすいかと思います。現代であれば抗菌薬であるペニシリンの投与ですんなりよくなってきますが、若草物語の時代背景はアメリカの南北戦争時代。南北戦争は1861年~1865年ですから、日本では幕末に向けて若者たちが動き出している頃でしょうか。(大政奉還は1867年)ドラマ「JIN-仁-」でも出てきましたが、この時代にペニシリンはまだありませんでした。ペニシリンはおよそ70年後の1928年にアレクサンダー・フレミングによって発見され、その名前が付けられました。つまり猩紅熱で苦しむベスを治す薬は当時なかったのです。ここからは原作には書いてありませんが、おそらく猩紅熱による合併症でリウマチ熱になり、熱が下がったあとも体調が悪く、数年後に死に至ったのではないかと予想されます。ペニシリンがあればベスは死なずに済んだかもしれません。そう考えると現在効果のある抗菌薬があることはいかにありがたいことかご理解いただけるでしょう。だったら嫌な抗菌薬も頑張って飲もうかなと、しっかり内服してくれることを期待しつつ、さらには今ある抗菌薬を正しく服用し、未来の子供たちにも使えるものにしたいと願っています。※抗菌薬の不適切な使用のせいで抗菌薬の効かない菌が増えています。このまま策を講じなければ30年後には効果のある抗菌薬が全くなくなってしまうと考えられています。

結論

溶連菌咽頭炎と人食いバクテリアの溶連菌は全く同じ菌です。そのためこどもの咽頭炎から大人の劇症型溶血性レンサ球菌感染症になる可能性を現段階では否定できません。

ただし基本的な感染対策を行うことで、家庭内感染を防ぐことができます。そして抗菌薬を正しく服用することで、溶連菌の流行を防ぐことになり、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の感染者数減少につながるしょう。これはすべての感染症に言えることです。

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